カルシウム、文章サイト。

たった、ひとりの。

僕は疲れている。数学で分からない問題だけ当てられたし、体育は持久走だったし、その後でも部活で思い切り走ったし、久しぶりに一人で帰っているから。(北は委員の仕事で遅れると言っていた)ああ、僕は、とても疲れている。

「北……待ってればよかった」
「でも、そうしたら北は僕のことばっかになるからな」
「何ともないのに心配するもんなー」

しばらく歩いていたら、僕は、なんだか、寂しくなってしまった。家のすぐ近くまで来ていて、もう視界に見えているのに、僕は立ち止まって、決めた。北の仕事が終わるまで待って、一緒に帰ろうと。僕は、歩いてきた道を逆に歩き出した。学校に、向かっている。何故か、今日の僕は、すごく寂しがりやだ。今日だけ、北を待とうと思った。一緒にいたいと思った。

きょう、だけ。

学校に着いて、はじめに、北の靴を確認した。スニーカーがある、ということは、まだいるんだ。北は、やると決めたら終わるまでやめない。帰るのは、かなり遅くなるだろう。でも、待つつもりだった。一緒に帰る約束なんてしてないけど、一緒じゃないと嫌だから。そう、気付いたから。靴箱でやれることなんてなかった。僕は頭の中でしりとりを始める。「リンゴ」「ゴリンゴ」「ゴリンゴ」「ゴリンゴ」これは、永遠に終わらないと思った。

「北…遅いだろうなあ…」
「……しりとりも飽きたな…」
「でも……一人は、嫌だしなあ…」

多分まだ数分しか経っていないと思ったけど、僕はもう待ちたくなかった。待つことに飽きてしまった。また、疲れてしまった。「北を待つ」のをやめた僕は、「北を迎えに行く」ことにした。靴を履き替え、階段を見ると、北が、踊り場から僕を見ていた。

「……ぷっ」
「わっ、ちょ、北っ!」
「お前、すげ、独り言…っ……ははは!!」

北は、ずっと見てたけど、お前は一人になると面白くなるな、と言った。褒めているのか、いないのか。とりあえず僕は、北の姿を見た瞬間に疲れがどこかにいった。北のところまで走っていって、笑うなよと言う。北はそれでも笑っている。何がそんなに面白かったのか全く分からない僕にとっては、全然、何も面白くない。北がやっと笑うのをやめて、僕の顔を見た。よく見ると、北は鞄を持っていなかった。

「お前、何でまだ学校にいるんだ?」
「ずっとじゃないよ、一回……帰ったし……」
「じゃあ、何で?」
「いや…一緒に帰ろうと、思って……」
「そうか、お前は俺と一緒に帰りたいんだな」
「…っ!……そうだけど…」

北は、少し照れくさそうに笑いながら、僕を生徒会室に連れて行った。そういえば、北は、生徒会の役員だった。中に人は居なかった。北以外の人は、もう、みんな帰った後らしい。僕は、大体、予想できた。何故この状況になっているのかも、これからどうなるのかも。また少し、疲れてしまった。

「生徒に配るプリントのレイアウトが気に入らないんだ」
「……」
「何回もやったのに…どうしても、B5じゃ入りきらない…!」
「B5…?」
「でも、A4にはできないんだ。今まで通り、B5で…何とかしないと…」

北は、とても悔しそうだった。B5が何のことなのか、意味は分からないけれど、とりあえず、仕事が終われば帰れるんだ。一緒に、帰れるんだ。僕は、北に話しかけながら見ていた。知らないなら、口出ししちゃいけないと思ったから。僕は、北と一緒にいるときは、疲れを感じない。むしろ、癒されていく。僕は、北の真剣な顔を見つめてみた。その瞬間に北が僕のほうを見たから、目が合った。北が言う。

「俺、さっきまで、すごいイライラしてた」
「北が?」
「そうだ。でも、お前の顔を見たら、なんか…テンション上がった」

僕は、それを聞いて、テンションが上がった。北も僕と同じなんだ、一緒にいると…一緒にいなきゃ、いけないんだ。一緒にいるのが、いいんだ。僕は、北を見て笑った。北は、何だよ、と言いながら、笑った。北はその後すぐに閃いたみたいで、思っていたより早く仕事が終わった。帰り道は、生徒会で何をしているのか聞いた。週末にも、生徒会の仕事があるらしい。

「今度のは…もっと、長くかかりそうなんだ」
「そっか…」
「だから、お前は先に…」
「うん、じゃあ、長く待つね」

北は、そうか、と言って、僕の髪がぐちゃぐちゃになるくらい撫でた。北が嬉しいときや照れたときにやる癖だって分かってる僕は、それがすごく嬉しかった。

「だから、できるだけ早く終わらせるように努力してね!」
「分かった」

今日だけじゃなくて、これからもずっと、どんなに待ってもいいから、一緒に帰ろうと思った。